【本利用目的】 有機低分子の水素結合から形成される多孔性結晶hydrogen-bonded organic framework (HOF)は有毒元素を含まないことや温和な環境での合成可能など環境負荷が少ない利点がある (図1a上)。また、分子選択によって合理的に構造を制御することができるうえ、水素結合は可逆性の高い結合であることから柔軟かつ多様な構造構築が期待できる。このHOFのナノシートを形成することは、ナノメートルスケールでの厳密に定まった構造を実現しつつ、環境負荷の小さい新たな機能性ナノ材料となりうる期待ができる (図1a下)。 本研究では、HOFナノシート創製のため、気液界面の分子配置が制限された環境を用いる手法に着目した (図1b)。本手法では、平面疎水骨格の周囲に親水性の水素結合部位がバランスよく配置された有機分子を気液界面に展開することで、疎水部と親水部の配置に応じて、気液界面に規則的に配列が生じる。そのために、無細孔となる構造の構築が抑制され、分子導入可能な細孔を持つHOFナノシートが得られる。これまでに、申請者らは気液界面で作製したナノシートを基板に転写した試料の0次元検出を用いたex-situ X線回折測定によって定量的に結晶構造の解明を行ってきたが、形成過程段階の情報が含まれないために、形成メカニズムと各作製条件因子の詳細な効果を解明できていない。これらは、結晶構造や表面モルフォロジーを制御し、応用先のデバイスに適したナノシートを形成するために不可欠な情報である。そのため、気液界面その場 XRD測定がその解明には不可欠である。本課題では、申請者らが確立した気液界面その場XRD測定を用いて(図1c)、HOFナノシートの形成メカニズムと作製条件因子の結晶形成への影響の解明を目指す。 【試料名、実験方法、使用装置・実験測定条件】 試料:トリアジン誘導体ナノシート 実験方法と測定条件:ビームラインに既設のXYステージの上に自作のSUS製ステージとテフロン製トラフを設置した。そのトラフに希塩酸を満たすことでできる気液界面にトリアジン誘導体溶液を展開し、ナノシートを気液界面に作製した。そのナノシートに対し、Ge単結晶ウエハーで打ち下ろしたX線(10 keV)を水全反射臨界角(0.106°)で入射し、ナノシートからの回折光を0次元検出器で検出した。また、試料と検出器の間にsoller slit(分解:0.13°)を設置した。スキャンは、入射角固定(打ち下ろし角度と一致)によるin-plane スキャン(2θzスキャン)と薄膜法(2θスキャン)を実施した。 【測定内容、結果の概要】 本課題で取得した気液界面その場in-plane XRDプロファイルと固体基板上に転写成膜した同プロファイルを図2に示す。回折ピーク位置は一致することから、気液界面で形成されるナノシートの結晶構造が保持されたまま、固体基板へ転写成膜されていることが明らかになった。そのため、デバイス応用を検討する際、気液界面での結晶構造を保持されたナノシートを用いることが可能であることが示唆された。 また、BL46XUで利用可能なアンジュレータ線源によってプロファイルのS/N及びS/B比は、BL19B2のベンディングマグネットのみの線源で得られるプロファイルよりも大幅に向上させることができた。しかしながら、照射X線で結晶構造破壊されるために、広範囲測定や経時測定などの長時間測定が困難であった。また、ナノシートの含有元素や作製条件の変更に伴う表面モルフォロジーの変化によって、X線での構造破壊の程度と要する時間は異なった。そのため、目的である形成メカニズム等の解明は達成されなかった。これらから、実験データの質とナノシート構造の保持はトレードオフの関係であることが示唆された。今後、適切な測定条件の探索を検討する。 |