課題情報
課題番号 2019A1815
実験課題名 XAFSスペクトル測定法標準化のための基礎的検討(3)
実験責任者 0025706 渡辺 剛 ((公財)高輝度光科学研究センター)
ビームライン BL14B2
タイトル
XAFSスペクトル測定法標準化のための基礎的検討(3)
著者
 
主著者 0025706 Watanabe Takeshi (公財)高輝度光科学研究センター
共著者 0029852 Kimijima Kenichi 高エネルギー加速器研究機構
共著者 0017583 Setoyama Hiroyuki (公財)佐賀県地域産業支援センター九州シンクロトロン光研究センター
共著者 0035178 Suda Kohei (公財)科学技術交流財団
共著者 0004121 Uehara Yasushi (公財) 科学技術交流財団
共著者 0011479 Nishio Kouji スプリングエイトサービス(株)
本文
1. 利用目的
X線吸収分光(XAS)測定は試料の化学状態や局所構造について元素選択的にかつ試料の状態を問わず調べることができるため、学術分野だけでなく産業分野における材料・開発にも広く用いられている手法である。現在ではSPring-8をはじめとする各放射光施設で複数のXAS測定専用ビームライン(BL)が整備されるに至っている。この結果、放射光ユーザーは必要に応じて放射光施設やBLを選択あるいは横断的に複数利用しながら研究開発を進めることが可能となっている。
XAS測定を適切に行うためには、各放射光施設で測定できる元素、エネルギー分解能、測りたい試料をXAS測定する際に要する時間(各施設やBLのPhoton fluxに関連する知見)といった各施設の特徴を把握する必要がある。しかし、現状ではこのような各施設の特徴に関して実験データに基づき比較・検討した例がなく、放射光スタッフ側はユーザーの要望に応じて最適な実験施設や測定条件の提案することが困難となっている。この結果、放射光の利用経験の浅いユーザーは、放射光施設をどのように利用すれば自身の課題が解決できるか判断が難しいという問題が生じている。したがって産業界ユーザーにおける放射光利用の利便性を向上させるためには、各放射光施設で横断的に測定した標準試料データや、実験データに基づく施設の特徴などを放射光施設スタッフ間、産業界ユーザー間で共有することが重要となる。
このような背景のもと、我々は光ビームプラットフォーム事業の一環としてSPring-8 (SP8), Photon Factory (PF), SAGA-LS (SAGA), あいちSRの4施設間で硬X線XAS測定のラウンドロビン(RR)実験を実施している。初年度の2016年度は、第1段階として人的交流と各施設の現状把握を目的に、金属箔や金属酸化物の標準試料を用いた硬X線XAS測定のRR実験を実施した。この結果、我々は現状の各施設・BLのエネルギー分解能や、S/Nや実効的に測定可能なエネルギー範囲について確認することができた。
さらに2017-18年度は第2段階として、ユーザーからの質問が多い項目である低濃度試料の検出下限や測定に必要な時間の定量的検討を各施設で行った。(課題番号SPring-8; 2017B1832,2018A1801 あいちSR; 201706011, 201705029 PF 2017R-29, SAGA-LSで1件)この検討によって、8.98 keV近傍における各放射光施設の検出限界に関する特徴づける実験データを得た。しかし、この検討はCu(8.98 keV)に限られている。硬X線XASのRR実験に参画する放射光施設間は、各々で測定可能なエネルギー領域が異なるだけでなく、測定効率が最も良いエネルギー領域も異なる。これに加えて、従来の第1-2段階のRR実験では産業界ユーザーがXAS測定を適用する様な「実試料」を検討した事例がない。したがって第3段階では、より広いエネルギー範囲に及ぶ特徴の抽出だけでなく、実試料の検討を実施することで、産業界ユーザーにとって実用性の高い知見を獲得していくことが重要である。
そこで今回は、第3段階として産業界ユーザーとって実用性の高い知見獲得を目指した硬X線ラウンドロビン活動を実施した。具体的に本課題では、以下の2項目について実施した。
① Cu以外の低濃度金属酸化物を用い、広いエネルギー範囲におよぶ検出限界の検討
② 参照触媒のラウンドロビン実験の実施

①では各放射光施設の特徴を抽出し、一方②では、XAS測定の利用頻度が高い触媒試料を実試料として位置づけ、RR実験を行った。

2. 実験
① Cu以外の低濃度金属酸化物を用い、広いエネルギー範囲におよぶ検出限界の検討
測定元素: TiO2 (1000 ppm, 100 ppm), ZrO2 (1000 ppm, 100 ppm, 10 ppm), SnO2 (1000 ppm, 100 ppm, 10 ppm),
測定吸収端: Ti-K, Zr-K, Sn-K
測定法: 蛍光法、Step scan測定
測定範囲: 20A-1
測定時間: 約1時間

② 参照触媒のラウンドロビン実験の実施
測定試料: TiO2 (JRC-TIO-1, 7, 9, 10, 13-16), CeO2 (JRC-CEO-1, 2, 4, 5), WO2 (JRC-WZ-1), Nb2O5 (JRC-NBO-1, 2, 3AO, 4, 5C), ZrO2 (JRC-ZRO-9), PtO2(JRC-PTAL-2)測定した。 いずれも触媒学会より配布されている試料である。BNをバインダーとして使用しペレット状に成型したものを測定した。
測定吸収端: Ti-K, Ce-L3, W-L3, Nb-K, Zr-K, Pt-L3, Ce-K
測定法: 透過法、Quick scan測定
測定範囲: 20A-1

3. 結果
① Cu以外の低濃度金属酸化物を用い、広いエネルギー範囲におよぶ検出限界の検討
図1にZrO2/BNの蛍光XAスペクトル濃度依存性を示す。この結果、10 ppmに至るまで明瞭なXAスペクトルが取得できることが分かった。SnO2でも同様の結果を得たが、TiO2では濃度が低くなるに従いEXAFS振動が観察できなくなることが分かった。この原因として、SPring-8ではこのエネルギー領域のPhoton flux数が小さいためと考えられる。今後、より詳細な解析を行っていく。

② 参照触媒のラウンドロビン実験の実施
図2には、各放射光施設におけるJRC-TIO-7のXAスペクトルを示す。本実験の結果、いずれの施設においても同様のXAスペクトルを取得することができた。今後、SAGA-LSにおいても同様の測定を実施する。
画像ファイル添付
図1. ZrO2/BNの蛍光XAスペクトル濃度依存性 図2. 各放射光施設におけるJRC-TIO-7のXAスペクトル