課題情報
課題番号 2019A7234
実験課題名 微生物産生ポリエステルにおける柔軟性と高次構造変化の関係
実験責任者 0001630 岩田 忠久 (東京大学)
ビームライン BL03XU
タイトル
微生物産生ポリエステルにおける柔軟性と高次構造変化の関係
著者
 
主著者 0001630 Iwata Tadahisa 東京大学
共著者 0025531 Kabe Taizo (公財)高輝度光科学研究センター
共著者 0050222 Kawamura Yuuki 東京大学
共著者 0051395 Omura Taku 東京大学
共著者 0051397 Komiyama Katsuya 東京大学
共著者 0051399 Matsumoto Yusuke 東京大学
本文
1.緒言
 近年、環境中で分解しないプラスチックによる海洋汚染が問題になっている。そこで、土壌中のみならず海水中でも分解する数少ないプラスチックである、微生物産生ポリエステルの一種、ポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート] (P(3HB)) に注目が集まっている。P(3HB)は微生物から生合成され、環境分解性に加えて、生体吸収性をも有するプラスチックとしてよく知られている。しかしながら、P(3HB)は硬くて脆い性質が問題で、材料として成形加工、使用することが困難であった。そこで、P(3HB)の機械的物性及び熱的物性を改善するために、共重合体化に関する研究が多く行われてきた。当研究室では、共重合体組成として4-ヒドロキシブチレート (4HB) を導入したP(3HB-co-4HB)がP(3HB)の硬くて脆いという性質から、伸縮性 (ゴム弾性) があるエラストマーのような材料へと変化することを発見した。
 本研究では、大型放射光 (SPring-8) の広角X線回折 (WAXD) 、小角X線散乱 (SAXS) を用いた結晶構造解析に基づいて、P(3HB-co-4HB)から高強度かつ高ゴム弾性を有する生分解性プラスチックの開発を目的とした。

2.実験方法
P(3HB-co-4HB)を溶融紡糸した繊維 (未延伸繊維、延伸繊維および延伸後にアニーリングした繊維) を20 mm/minの速度で室温において、引張試験しながらBL03XUビームラインで、WAXDとSAXSを同時に測定した。

3.実験結果
 P(3HB-co-4HB)繊維の引張試験結果とその時のWAXD, SAXSのX線回折図をFig. 1に示す。未延伸繊維引張試験結果を黒線、延伸繊維の結果を赤線で示す。未延伸繊維において、引張試験直前 (a) のWAXDの回折図には、(020)と(110)面に由来する回折がリングパターンとして現れた。また、SAXSには薄いリング状パターンが見られ、明確な散乱は観察できなかった。この未延伸繊維を引張試験すると降伏点 (b) において、WAXDの回折図に(020)と(110)面の弱いリングパターンに加えて、高強度化の原因と報告されている伸びきり鎖構造 (β構造) に由来する回折が確認できた。また、SAXSの回折図は赤道方向にストリーク上の散乱が観察された。これはシシカバブ構造のシシに由来するものである。一方で、延伸繊維の引張試験直前 (d) のWAXDの回折図には、(020)と(110)面に由来する回折がリングパターンに加えて、(020)と(110)面に由来する配向性の強い回折が観察された。また、SAXSには子午線方向に、ラメラ結晶の長周期に由来する二つの散乱が観察された。このことから、繊維を延伸することで、高分子鎖の配向を促していることが明らかとなった。この延伸繊維を引張試験すると降伏点 (e) において、WAXDの回折図に上述同様にβ構造 に由来する回折が確認できた。また、SAXSの回折図は赤道方向にストリーク上の散乱が観察されるとともに、子午線方向のラメラ結晶の長周期に由来する散乱が弱まる結果となった。
 延伸繊維をアニーリング処理したサンプルの引張試験結果とその時のWAXD, SAXSのX線回折図をFig. 2に示す。アニーリング温度を変えることで、配向性やラメラ結晶の長周期が変化し、機械的特性に大きく影響を与えるとこが明らかとなった。
画像ファイル添付
P(3HB-co-4HB)繊維の広角および小角X線回折図と物性 P(3HB-co-4HB)熱処理繊維の広角および小角X線回折図と物性