[はじめに] 本研究の目的は連続炭素繊維強化プラスチックを造形できる3Dプリンタの性能を向上させることであり、本課題においては3Dプリンタ動作中の炭素繊維の動きを放射光イメージングで動的に観察する。 パリ協定において、日本では2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度の水準から26%削減することが中期目標として定められている。温室効果ガスのうち人が最も排出するのが二酸化炭素であり、運輸部門における二酸化炭素の排出量は日本全体の17.9%と産業部門に次いで二番目に大きな割合を占めている。このため輸送用機器の軽量化による二酸化炭素排出量削減の効果は大きく、マグネシウム合金や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)など軽量な材料を運送用機器に適用することが急務となっている。 CFRPは既に航空機の構造材料として使用されており、自動車構造への応用が期待されているが、CFRPは一般的にシート状の基材を用いて成形されるため、複雑形状部品を作ることが難しい。そのために航空機においては形状が単純な骨格構造においてはCFRPが使用されているが、複雑形状部品はジェラルミンによる削り出しとなっており、未だにCFRP化されていない。 このような複雑形状部品をCFRP化するための製造技術として、3Dプリンタを利用することができる。3Dプリンタはコストのかかる金型や治具などを必要とせずに、3次元形状を容易に造形することができる。特に、熱可塑性樹脂を用いた熱溶解積層方式による3Dプリンタは価格も安く、試作部品やモックアップの製作などに広く利用されている。この熱溶解積層方式の3Dプリンタに比剛性や比強度に優れる炭素繊維を熱可塑性樹脂と同時に供給することで複雑な形状のCFRP構造を作製することが可能であり、技術開発が世界的に進められている。 しかしながら、連続した炭素繊維を3Dプリントすることに起因する繊維の偏りやねじれによって強度低下が生じたり[1]、正確な3Dプリントパスを描かないために設計通りの形状が3Dプリントできなかったりなど、連続繊維を3Dプリントすることによる特長的な問題が生じることが明らかとなっている[2]。これらの課題を解決するためには、溶融した状態のCFRPフィラメントがノズル先端部によってベッドに押し付けられている状態や、ノズルから排出された後の樹脂内の炭素繊維の位置や動きを明らかにし、得られた知見によって、CFRPを3Dプリントするための最適なノズル形状や、プリント条件の最適化を行う必要がある。そこで本課題においては、3Dプリンタを動作させながらノズル先端部をX線イメージングで観察した。
[実験方法] 実験はBL46XUで行った。X線のエネルギーは10 keVとした。高調波除去のために全反射ミラーを3.56 mradの角度で設置した。X線イメージング装置はBL46XUの第一実験ハッチ内の下流側に設置し、ハッチ上流からイメージング装置の直前までは真空パスを設置した(長さ2.7 m)。 検出器はFlash4.0とビームモニタ3(10倍対物レンズ)を組み合わせたものであり、蛍光体にはLuAGを用いた。この組み合わせによる実効的な画素サイズは0.503 μmであった。屈折コントラストの影響が大きくなりすぎないようにするために、試料から検出器までの距離は可能な限り近づけて190 mmとした。露光時間は1 msとした。この時のフレームレートは170 fpsであった。 3DプリンタはMarkforged社のMark-Twoを用いた。フィラメントは長い炭素繊維が含まれたもの(連続炭素繊維)と短い(長さ0.2 mm程度)炭素繊維が含まれたものの2種類を準備した。
[結果] 連続炭素繊維フィラメント印刷中の観察例を図1に示す。図中の青矢印はノズルの移動方向を示している。図中、上側および下側の黒い領域はそれぞれノズルおよびベッドである。ノズルとベッドの間に観察されているのが印刷されている連続炭素繊維フィラメントである。連続炭素繊維フィラメントの画像中には炭素繊維と気泡が観察された。測定によっては印刷物の上部に炭素繊維が露出している状況も観察されたが、ノズルが印刷物の表面をアイロンのように押さえることによって平坦な表面を作り出していた。 図2は短炭素繊維フィラメントの印刷中の観察例である。ノズル直下では短炭素繊維が下に向かって排出されているがノズル後方では横向きに配列していた。これはノズルとベッドの間で樹脂が引っ張られることによって炭素繊維が配列していると考えられる。
[まとめ] 炭素繊維フィラメントを3Dプリンタで印刷中の様子をX線イメージングで観察した。連続炭素繊維フィラメントの観察では印刷中に気泡が多いことや印刷物表面に露出した繊維がノズルによって押さえられる様子を観察することができた。 短炭素繊維フィラメントの観察では繊維が配列する様子を観察することができた。 視野が狭くノズルが観察されている時間が短いため、観察された出来事が偶然起こった可能性もある。ノズルは固定してベッドを移動させて印刷するか、空間分解能を犠牲にして広いビームと広い視野の検出器で観察するなど、実験方法の改善が必要であった。
[1] Mechanical testing of a 3D-printed continuous carbon fiber reinforced polylactic acid composite by in-nozzle impregnation fused-deposition modelling, R. Omuro, M. Ueda, R. Matsuzaki, Y. Hirano, A. Todoroki, SAMPE Journal, vol. 54, No. 5, (2018), pp. 12-20. [2] Effects of set curvature and fiber bundle size on the printed radius of curvature by a continuous carbon fiber composite 3D printer, R. Matsuzaki, T. Nakamura, K. Sugiyama, M. Ueda, A. Todoroki, Y. Hirano, Y. Yamagata, Additive Manufacturing, Vol. 24, (2018), pp.93-102. |