課題情報
課題番号 2018A7212
実験課題名 自動車用有機材料の構造解析と物性発現機構の解明
実験責任者 0015288 岡本 泰志 ((株)デンソー)
ビームライン BL03XU
タイトル
自動車用有機材料の構造解析と物性発現機構の解明
著者
 
主著者 0015288 Okamoto Yasushi (株)デンソー
共著者 0007745 Takahara Atsushi 九州大学
共著者 0035612 Yamamoto Atsushi (株)デンソー
共著者 0036733 Muto Masataka (株)デンソー
共著者 0024731 Hoshino Taiki (独)理化学研究所
本文
【緒言】
近年の自動車業界では、環境に適応する製品開発が進められており、省エネ(燃費向上)のための軽量化や排気ガス浄化のためのエレクトロニクス化が進展している。このため用いられる材料は金属から樹脂に変わり、製品形状は小型化している。これに伴い接合方法も従来の金属接合から接着が多用されるようになってきた。一方で自動車用途では高度な信頼性が要求され、接着接合でも接着強度のばらつきを低減して接着強度を向上し、かつ長寿命を達成する必要がある。本研究は自動車用樹脂材料の接着信頼性向上に関し、接着材料の構造解析と物性発現機構の解明を行うものである。
本研究は接着剤として使用されるエポキシ樹脂の構造解析を行ない、物性との相関を明らかにすることを目的とする。エポキシ樹脂は主剤と硬化剤からなり、製造工程において硬化して使用するため短時間で硬化することが望ましい。しかし高温短時間硬化すると架橋に粗密が生じ、生成する硬化物の耐熱性等の物性が低下するため、通常は低温から段階的に昇温して硬化している1)。これまでに触媒硬化系および酸無水物硬化系エポキシ樹脂の高温短時間硬化では、ゲル化点後に硬化反応が停止するため架橋の粗密が生じることを報告した1)2)。また2017B期には、材料系および硬化条件による架橋密度とエポキシ分子の運動性との関連を検討するためにX線光子相関(XPCS)測定を行ない、エポキシ樹脂の架橋密度が高いほど運動性は低下することを確認した3)。今回はエポキシの硬化挙動をXPCSにより解析した。

【実験】
測定サンプルはFig1.に示すとおりに調製した。触媒硬化系エポキシは主剤のビスフェノールAジグリシジルエーテル(三菱化学製jER828)1.0gと触媒の1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾールC11ZCN(四国化成製)0.03gを、また酸無水物系エポキシは主剤1.0g、硬化剤の4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化リカシッドMH-T) 0.85g、触媒のN,N-ジメチルベンジルアミン(和光純薬工業製DMBA) 0.005gをサンプル管に秤量し、これに1vol%となるようにシリカゾル(日産化学製MEK-AC-5140Z 40wt%-SiO2/MEK 粒径124nm)を添加して室温で混合し、減圧下MEKの除去および脱気を行い、XPCS測定に供した。XPCS測定はSPring-8 BL03XUにて、ビームサイズ20μm、X線波長0.155nm(8keV)、カメラ長8m、検出器Eiger、照射時間1-100ミリ秒、測定間隔1-5000ミリ秒、フレーム数500枚、測定温度200℃の条件で行なった。

【結果および考察】
図2に触媒硬化系、酸無水物硬化系エポキシの100℃(通常硬化を模擬)と120℃または150℃(短時間硬化を模擬)における自己相関関数の硬化時間変化を示した。いずれも硬化時間に従い、緩和時間は遅くなり重合または架橋によりエポキシ分子が拘束されていく様子が確認された。特にゲル化点の前後で緩和時間は大きく変化しており、架橋による拘束が分子運動性に大きな影響を与えることが示差された。今後は短時間硬化でも密な架橋が形成される硬化条件を検討していく予定である。

参考文献
1) 岡本泰志,高倉朗,青木孝司,杉浦昭夫,高原淳,柴山充弘,第46回信頼性・保全性シンポジウム発表報文, 263-268(2016).
2) 岡本泰志,青木孝司,杉浦昭夫,高原淳,2015年度FSBL成果報告集, 32-33.
3) 岡本泰志,高原淳,星野大樹,山本渥史,武藤正誉,2017B7262利用課題実験報告書
画像ファイル添付
Fig1.XPCS測定実験 Fig2.XPCS測定結果