課題情報
課題番号 2018A1550
実験課題名 極小角散乱による高温高圧下でのアスファルテン凝集体の緩和観測
実験責任者 0029975 森田 剛 (千葉大学)
ビームライン BL19B2
タイトル
極小角散乱による高温高圧下でのアスファルテン凝集体の緩和観測
著者
 
主著者 0029975 Morita Takeshi 千葉大学
共著者 0044221 Tanaka Ryuzo 出光興産(株)
共著者 0044220 Morimoto Masato (国)産業技術総合研究所
共著者 0045123 Suzuki Sakitada 千葉大学
共著者 0045139 Suzuki Takuya 千葉大学
本文
利用目的
 アスファルテンの凝集体はメソスケール域のサイズ領域にある. これに加え, アスファルテンは分子レベルの一次凝集体がさらにフラクタル的に高次階層構造を形成している. アスファルテンの強凝集へのプロセスの理解には, このフラクタル的な高次凝集挙動を解明することが必須である. しかし, 極小角散乱を用いてアスファルテンの高次凝集構造を解析する研究は十分には行われていない. これは, 極小角散乱の手法的な特殊性に加え, もともと高次階層構造は複雑である. 特に, 高温高圧下での凝集緩和挙動について極小角散乱法により検討しているのは, 共同実験者の田中らにより発表された論文を含めて, 現在でも世界的にみてもわずかな研究グループのみである. これは, 高温高圧実験に対する実験技術的な難易度とともに, 非常に重要な手法であるにも関わらず, 極小角散乱法が当該の研究分野にまだ十分に適応されていないことも原因である.
 以上から, 本申請課題の目的は, 極小角散乱法によりアスファルテン凝集体について, 特に高温高圧下における高次階層構造を含めた凝集構造を解析することとした. このアプローチに基づき, 高温高圧状態において, 凝集体が凝集緩和し, またその緩和が起こる過程を詳細に検討することとした. 一方で, 基盤となる情報として, 凝集緩和が促進される溶媒種の条件について, 常温常圧下でのアスファルテン凝集緩和挙動を検討し, さらに, 極小角のみではなく, 一次凝集体が観測されるサイズ領域となるSAXSの測定も行い, 広いサイズスケールでの構造変化を検討することとした.

試料名、実験方法、使用装置・実験測定条件
 光学系はBL19B2に設置されている極小角(および小角)X線散乱測定光学系を用いた. X線エネルギーは18 keV程度とした. 5種(トルエン, トルエンーペンタン混合溶媒, キノリン, デカリン, 1-メチルナフタレン)の溶媒種依存性については, 常温常圧下での測定となるため, Φ1.5-2.0mmのキャピラリーに溶液をセットし, 大坂 恵一 先生が考案された全自動測定システムを用い, 実験時間を有効利用し多数の溶液に対する測定を実施した. また, 高温高圧条件下での測定では, 高温高圧測定用の試料ホルダーは当研究グループが持ち込み, 光学系の試料位置にセットした. 本体材質はチタン合金(Ti-6Al-4V)および純チタン製である. 高温高圧測定では, 溶媒は本申請ではトルエンに絞り, トルエンに溶解したアスファルテン試料を送液ポンプで試料ホルダーに注入し温度依存性を検討した.
実験条件は以下の通りであった.
1, 常温常圧下での測定条件
溶媒:トルエン系, トルエンーn-ペンタン系(ペンタンが10vol%の混合溶媒), キノリン, デカリン, 1-メチルナフタレン
濃度:100,000 mg/L
2, 高温高圧での測定条件
アスファルテン濃度(カナダ産オイルサンドビチューメンより精製): 50,000 mg/L
温度依存性: 室温, 50, 75, 100, 125, 150, 175, 200, 250, 300 °C

測定内容、結果の概要
 常温常圧下における溶媒種依存性については, ハンセン溶解度パラメータで表現されるアスファルテンへの親和性に相関して, 様々なプロファイルを持つシグナルを取得した. 小角から極小角までのシグナルを解析することで, ユニット構造から高次階層構造までの溶媒効果における凝集緩和挙動について, 発表されてきた論文による知見に対し有意義な情報を加えられる可能性がある. 高温高圧下においては, トルエン系の小角から極小角までの広範なシグナルを, 300℃まで高精度に取得することに成功した. 初期的な解析から, (1) 温度領域により凝集構造の中で変化する部分が異なる可能性があること, (2) 昇温によりトルエン中ではユニット構造は大きく変化するが階層的なフラクタル構造はあまり凝集緩和を起こさないこと, (3) 強凝集したそのフラクタル的構造の凝集緩和は, トルエンの場合、濃度依存性が顕著である可能性があること, などが明らかとなった.
画像ファイル添付
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