・利用目的、測定内容、結果のまとめ 電気絶縁材料に対して高電圧を印加すると、材料中に電気トリーと呼ばれる微細なクラックが発生し、これが材料中を貫通することで絶縁破壊が生じる。一般に、電圧が高いほど破壊の進展スピードが速いこと、材料中の微小欠陥が絶縁性能を劣化させることが知られているが、トリーの進展方向や形状の違いと電気絶縁性との関係については、未知の部分が多い。近年、高電圧工学分野では、分子動力学計算や量子化学計算などのシミュレーション技術により、電気トリー進展の基礎原理を解明しつつ、材料の絶縁性能を向上させようとする動きが見られる。 申請者のグループでは、材料の構造およびこれに由来する微小な欠陥が、トリーの進展方向や形状の違いに与える影響について研究している。特に実験、シミュレーションの両面から解析しようと試みており、この解析に電気トリーの3次元形状が必要である。電気トリーの観察方法として、X線CT装置での3次元計測があるが、電気トリーの直径は約1マイクロメートル程度であり、分解能の制約上、市販装置では観察が不可能である。そこで、電気トリーの3次元形状観察にBL20XUのX線CT装置を用いることとした。申請者のグループでは同様の試験として、これ以前にエポキシ樹脂の電気トリーを観察した経験があり、今回も同様、適切に観察することができると考えている。 今回、シミュレーションでのデータ活用のしやすさを考慮して、低密度ポリエチレン試料への高電圧印加時に発生する電気トリーおよび絶縁破壊の形状を撮影し、材料中に生じた電気トリーの3次元形状を得ることができた。得られた画像データを再構築し、3次元ビュワーで表示した一例を添付画像として示す。今後は得られた形状をもとに解析用モデルを作成して各種計算方法による数値解析を実施し、高電圧試験の結果との比較を進めてゆき、材料の絶縁性能の向上につなげていきたい。
・試料名、実験方法、使用装置・実験測定条件 ○試料名 低密度ポリエチレン、アクリル樹脂(テスト試料) ○実験方法、使用装置・実験測定条件 樹脂試料にあらかじめ高電圧を印加して電気トリーを発生させたものを準備し、BL20XUに持ち込んだ。その後、試料に生じた電気トリーの近傍1立方ミリメートルを切り出して、BL20XUのマイクロX線CT装置を用いて、試料内部構造の3次元計測を行なった。計測条件について、X線入射エネルギーは12.4keVであった。
・謝辞 本研究課題は、JSPS科研費 JP17K18441の助成を受けて実施されたものです。 |