利用目的 石油の重質油成分の中でも特に高極性・高分子量なものが「アスファルテン」である. 最大の一次エネルギー源である原油の中で, 効率的にアスファルテンなどの重質油成分を利用することは, 高効率なエネルギー利用による環境調和型プロセスの構築において極めて重要である. 重質油の効率的利用を念頭とした分解技術に対し, 多くの努力が注がれ, 熱分解や水素化分解などが実用化されている. 一方で, 特に, コークの生成(コーキング)とコーク付着によるプロセス中の触媒能の著しい低下が問題となっている. コーキングの原因物質として, 重質油成分の中でも特に分子量の大きな凝集体を形成したアスファルテンがコークへと熱処理過程で変質することが考えられ, プロセスの高効率な稼働において, 大きな問題となり, 解決が急務とされている. アスファルテンなどの重質油成分凝集体を緩和する, つまり, 低分子化できれば, コーキングを抑制し燃料のアップグレーディングでのプロセスに寄与するだけでなく, 液体燃料としての高効率利用が可能となり, 燃料留分の利用効率を大幅に改善することが可能となる. アスファルテンの凝集体はメソスケール域のサイズ領域にある. これに加え, アスファルテンは分子レベルの一次凝集体がさらにフラクタル的に高次階層構造を形成していると考えられる. アスファルテンの強凝集へのプロセスの理解には, このフラクタル的な高次凝集挙動を解明することが必須と考える. しかし, 極小角散乱を用いてアスファルテンの高次凝集構造を解析する研究は十分には行われていない. 以上から, 本課題の目的は, 極小角散乱法によりアスファルテン凝集体について, その高次階層構造を含めた凝集構造を解析することとした. このアプローチに基づき, 凝集緩和が促進される溶媒種の条件(本課題ではトルエン, トルエンーペンタン混合溶媒, ブロモベンゼン中での濃度依存)において, 凝集体が低分子化し, 凝集緩和が起こる過程を詳細に検討することとした. 溶媒種選定の根拠は, トルエン:最も一般的なアスファルテンに対する溶媒, トルエンーペンタン混合溶媒:ペンタンがアスファルテンに対し貧溶媒性を示す, ブロモベンゼン:純溶媒で最も良溶媒性を示す, である. さらに, プロジェクトチームが特殊技術により分画分離し精製したアスファルテン極性フラクションやアスファルテン類似モデル化合物について, 極小角散乱測定および小角散乱測定を実施した.
実験条件 今回, ブロモベンゼン系の測定のため, 特別に13keVにX線エネルギーをアライメント頂き実験を行った. 単色化用の二結晶モノクロメータについて, Braggの反射条件からわずかにずらして角度を設定し, 全反射ミラーを用いなくても高調波をできるだけ除去できるよう担当の大坂先生のご尽力で設定が行われた. これにより, 前回の課題で測定が不可能であったブロモベンゼン系について良好なシグナルを取得することに成功した. 具体的な実験条件は下記の通りであった.
試料名:アスファルテン(カナダ産オイルサンドビチューメンより精製)と各種モデル化合物 溶媒:トルエン系, トルエンーペンタン系, ブロモベンゼン系 濃度:20, 500, 1000, 10000, 100000 mg/L 使用装置:BL19B2の小角と極小角光学系と大坂先生が構築された自動測定システム 試料容器:直径2mmのキャピラリーに溶液を注入し, 揮発防止のためグルーガンにてロウ材で封をし, 固定治具にセットした.
測定内容, 結果の概要 極小角散乱測定については, 露光時間を十分に長く設定するなどして, いずれも良好なシグナルの測定に成功した. また, 小角散乱測定についても良好なシグナルを得ることができた. 以上から, 各種溶媒に対する凝集緩和挙動やモデル化合物における凝集状態についての知見を得ることに成功した. 特に, 一次凝集からフラクタル的な高次凝集構造までを, 溶媒種依存性についての知見を得ることができたため, 凝集挙動に関するメカニズムについて, 踏み込んだ議論が可能となる情報を積み上げることができた. |