本利用課題実験は、本実験責任者らが構築を進めているパルス状コヒーレントX線溶液散乱(PCXSS: Pulsed Coherent X-ray Solution Scattering)法を用いて、溶液中で自然な状態にある生物試料等をイメージングすることを目的とする。PCXSS法では、集光した超短パルスX線自由電子レーザーを溶液中の試料に照射し、これにより得られるフェムト秒コヒーレントX線溶液散乱パターンから計算機を用いてナノレベルの溶液構造を取得する。溶液試料を薄い隔膜で挟んだ環境セルアレイを用いるのが特徴である。
2017A期のビームタイムは、2017年6月8日22時~6月11日10時の1回、5シフトであった。
PCXSS実験は2016B期までは、BL3においてMAXICを用いて行ってきた。2017A期では初めて、BL2においてMAXIC-IIを用いてPCXSS実験を行った。MAXIC-IIは、MAXICと比べチャンバ内の空間が広く確保されており、チャンバ内にポンプ光を導いたポンプ・プローブ型の時間分解測定が行える。本利用課題実験において、施設所有の波長可変ナノ秒レーザーEKSPLA NT230をポンプ光に用いて、初めてポンプ・プローブ型の時間分解PCXSS測定を行った。また、MAXIC-II用に、試料温度制御装置を開発し、試料温度を制御した実験も行った。
実験は前方散乱配置でのコヒーレントX線回折である。BL2のEH3における実験配置の写真を図1に示す。SACLAが発生した光子エネルギー4 keVのX線自由電子レーザーを、光学ハッチに設置された全反射ダブルミラーを用いて高次光を除去し、EH3に設置されたコヒーレント集光装置を用いて1.5マイクロメートルほどのスポットサイズに集光して、MAXIC-II内に設置した試料に照射した。試料ホルダーには、独自に開発した環境セルアレイを用いた。試料からのコヒーレントX線回折パターンは、MPCCDを用いて測定した。高精度のコヒーレントX線回折パターンを測定するため、MAXIC-II内に設置された2組の四象限スリットで試料以外からの寄生散乱を除去した。MPCCDはタンデムに2段に配置し、EH3に設置した上流のオクタルセンサーで広角領域をカバーし、EH4bに設置した下流のデュアルセンサーでは、オクタルセンサーの中心部の開口を通り抜けた小角領域をカバーした。下流センサーの直前にはビームストップを設置して、非常に強度の強いX線自由電子レーザーのダイレクト光が検出器に当たらないようにした。2017A期では、初めてフライングビームストップを用いた。
微生物生細胞などの生物試料や、金ナノ粒子集合体などの非生物試料に対してコヒーレントX線回折測定を行った。非生物試料のダイナミクス観察として、温度変化に伴う金ナノ粒子の集合や、UV照射に伴うハロゲン化銀の構造変化を測定した。図2にハロゲン化銀からのシングルショットコヒーレントX線回折パターンを示す。また、生物試料のダイナミクス観察として、異なる細胞周期のステージや、様々な試料温度や、ケージド化合物を利用したポンプ・プローブ測定を、マイクロバクテリア等の細胞に対して行った。いずれの試料に対しても、コヒーレントX線回折パターンを、X線自由電子レーザーのシングルショットで、高精度で計測することに成功した。
測定したコヒーレントX線回折パターンから、試料の構造情報を得るべく、順次データ解析を進めている。 |