■目的 本課題では、ゴムを構成するポリマー・フィラーの時空間階層構造を「SPring-8」、「J-PARC/MLF」、「京」を活用して解明することで、低燃費性能・グリップ力・耐摩耗性能を両立したタイヤ用ゴムの設計指針を得ることにある。 ゴムの補強効果を理解するためには、ゴムに含まれるポリマーの運動性の解明に加え、ゴム中のフィラー(ナノ粒子)が形成する凝集構造の周波数応答特性に関する知見が非常に重要となる。そこで、我々はポリマーダイナミクスを「J-PARC」で、ナノ粒子ダイナミクスをXPCS(X線光子相関分光法)で計測することで、ミクロスコピックなダイナミクスから粘弾性発現メカニズムの解析を行っている。 上記の手法は、熱力学的平衡下にあるミクロスコピックなダイナミクスを計測しているが、ゴムに外部刺激を加えた際のナノ粒子階層構造変化と粘弾性の関係を明らかにすることも非常に重要となる。そこで、我々は、これまでに高速変形下でナノ粒子階層構造変化を追跡する手法であるUSAXS-動的粘弾性同時計測法を開発してきた。本研究ではUSAXS-動的粘弾性同時計測法を用い、ナノ粒子階層構造と粘弾性の関係から時空間構造を明らかにすることを目的とした。
■実験 動的粘弾性装置を第一ハッチに、二次元検出器を第二ハッチに設置し、カメラ長約160.5mの 2D-USAXS(二次元極小角X線散乱)実験を行った。試料直前に4象限スリットを設置し寄生散乱を除去した。動的粘弾性装置からのTTL信号を基準とし、スティミュレータを用いて二次元検出器PILATUSと同期させ実験を実施した。使用したX線エネルギーは23keVである。試料にはカップリング剤種を変えたフィラー配合ゴムを複数種準備して用いた。
■測定結果 USAXS-動的粘弾性同時計測により、サブマイクロメートルスケールのナノ粒子凝集構造の応答変化を調べた。その結果、SAXS-動的粘弾性同時計測では観測されたナノ粒子凝集構造の応答変化が観測されないことが分かった。これはSAXS領域である数十ナノメートルのスケールから観測スケールがサブマイクロメートルスケールになったことにより、変形に対する応答性が変化したことを意味していると考えられる。したがって、今回の実験結果は外部刺激に対する応答性がフィラーの階層構造によって異なることを示唆している。 |