<利用目的> 福島原発事故に伴い多くの放射性核種が飛散し、内部被ばく影響に関心が向けられている。今後、溶融した燃料近くの汚染水処理が始まるとウランなどの核燃料物質を含む汚染水の二次的な事故等による周辺への汚染が懸念される。ウランは腎毒性物質としても知られており、ラットを用いたウラン急性腎毒性の先行研究では、尿細管障害回復期においても尿細管上皮にウラン濃集部位が残存し、そのウラン局在量は投与量の500倍以上に匹敵すること等が示されている[1, 2]。さらにウランはα線核種であることから、ウラン濃集部の残存による将来的な晩発影響が懸念される。このような背景から、ウラン晩発影響に関する科学的知見の蓄積と放射線防護上の早急な対策が望まれている。 これまで申請者らは、ウラン濃集部のウラン化学形を特定することがウラン濃集や残存性機序を明らかにする上で重要であると考え、腎臓内に蓄積したおよそ数ミクロン四方の極微小領域のウラン濃集部に対しマイクロXAFSによるウラン化学状態分析を行ってきた。その結果、腎臓全体のバルク情報としては腎臓内でウランは6価のウラニルとして主に存在しているが(2013A1750)、部位特異的に化学形変化が生じていることがわかった(2013B1747、2014A1720)。急性尿細管障害回復後の長期観察実験では、ウランの標的部位である下流部位近位尿細管の上流領域には繰り返し侵襲による再生尿細管像が残存することが示されている。このような組織病理変化と対応したウランの化学形変化を把握することが晩発影響を明らかにするために必要であると考えられる。 そこで本研究では、ウラン残存と長期組織影響の関係を調べるため、ウランを投与したラット腎臓の再生尿細管残存領域におけるウラン濃集部についてマイクロXAFSにより化学状態解析を行った。また酸化ウラン標準試料についてのXAFS基礎検討も行った。
<利用方法> 成熟ラット(雄性、10週齢)に酢酸ウラン(天然型)を1回皮下投与(0.5 mg/kgあるいは2 mg/kg)し、投与後経時的に解剖して腎臓を摘出した。一方の腎臓は、中性緩衝生理ホルマリンで固定し、パラフィン切片を作成して病理組織観察を行った。もう一方の腎臓の上部から凍結切片を作成し(10 µm厚)、高エネルギーSR-XRF およびXAFS測定試料とした。これに隣接する腎臓中央部分(100 mg)は高純度硝酸を加えて灰化し、誘導結合プラズマ質量分析によりウラン濃度を測定した。XAFS測定試料の隣接切片はヘマトキシリン-エオシン染色し組織構造を観察し、ウランイメージングおよびマイクロXAFS測定部位との対応を行った。 高エネルギーマイクロSR-XRFおよびマイクロXAFS測定はBL37XUにおいて行った。まず高エネルギーマイクロSR-XRF によりウランの蓄積のある下流部位近位尿細管領域の詳細イメージを取得した。分析領域内の下流部位近位尿細管上皮のウラン濃集部位について、ウラン局在量の高い順に2~7部位抽出し、数~10ミクロン四方程度のウラン濃集部位にビームを照射してマイクロXAFS測定を行った。同様にマイクロビームを照射し、酸化ウラン標準試料についてもXAFS測定を行った。
<成果概要> 酢酸ウランおよび各種酸化ウラン標準試料についてXAFSスペクトルを取得した。標準試料を用いた繰り返し測定では、放射光照射や大気の曝露による化学形変化は認められず、今回調製したウラン標準試料が化学形態解析に有効であることを確認した。次に長期影響の組織変化が観察された尿細管損傷回復移行期における再生尿細管残存領域のウラン濃集部では、濃集位置により酢酸ウラニルに類似したXANESスペクトルとUO2 に類似したXANESスペクトルが得られた。これらのことから、腎臓内に残存するウラン化学形は場所により変化しており、濃集機序が異なる可能性が示唆された。
<文献> 1) S. Homma-Takeda et al., J. Appl. Toxicol., 33, 685-694, 2013. 2) S. Homma-Takeda et al., J. Appl. Toxicol., (in press). 3) S. Homma-Takeda et al., J. Radioanal. Nucl. Chem., 279, 627-631, 2009. |