[緒言] 耐衝撃特性を改善する目的で、マトリックス相に対し10~30 wt%程度の非相溶なエラストマー相を物理的にブレンドしてμmオーダーで分散させることは、Polypropylene, PPでも有効である1)。段階的に両相を重合して製造するHeterophasic Copolymer, HECOは、機械的なブレンドと比較して分散性と生産性を改善できる。一般に不均一な材料は両相の屈折率差(Δn)により光が散乱され不透明となる。近年PP市場において内容物の高視認性(高透明性)に対する要求が増加してきたことから、われわれはΔnを小さくすることにより厚さ0.3mmのシートのヘーズが5%以下となるPPの“透明HECO”を開発した2)。しかしWhite Index, WI 3)が高く、十分な視認性が得られないという問題が発生した。Fig. 1に示す通り、透明HECOは機械的なブレンドよりも高いWIを示した。本研究の目的は高WIの原因を解明し透明HECOの透明性を改良することである。透明HECOのWI値が大きい原因が0.1~1μmオーダーの密度揺らぎであると仮定し、Ultra Small Angle X-ray Scattering, USAXSにより検討した。 [実験] PPの透明HECO、少量のエチレンを含有するEthylene-Propylene Random Copolymer, RACO及びRACOとΔnの異なる5種類のオレフィン系エラストマー(Fig. 1)を混練したブレンド試料を用いた。エラストマー分率を0.2とし、核剤を添加した。試料をタッチロール方式のシート成形機(40 mmφ押出機、370 mm幅Tダイ)で融液の圧延伸長により結晶化させて厚み0.3 mmのシートを作製した。偏光顕微鏡観察から全てのシート内部にmachine direction, MDに配向したエラストマー層が観察された。BL03XU (FSBL)の第2ハッチにおいてUSAXS観察を行った。X線(波長:0.2 nm、ビームサイズ:100μm×120μm)をシートに対しシート表面に垂直(Through)方向に入射した。カメラ長7.8 m、露光時間10 secで測定した。Imaging Plateで得た2次元散乱パターンの赤道方向の散乱(Fig. 2-a)を円環積分して得られたX線散乱強度からback groundを除去し、散乱体の吸収及び質量補正を行うことで相対強度比較が可能なIxを得た。 [結果・考察] Fig. 2-bにIx vs qを示した。ここでqは波数ベクトルである。RACOとブレンドサンプルでは、Ixがqの増大と共に減少し、WIやヘーズが大きい場合にIxが大きくなることがわかった。一方、透明HECOの Ixにおいて50 nm~500 nmに対応するq範囲にブロードなshoulderが見られた。よって、WIが高い原因として透明HECOに特有な密度揺らぎが寄与している可能性が示唆された。 [結論] USAXS観察により透明HECOの高WIの原因と思われる密度揺らぎの存在が示唆された。今後の課題は密度揺らぎの実体を解明し、USAXSとWIとの関連性を立証することである。 参考文献 1) S. Danesi and R. S. Porter, Polymer, 19, 4, 448 (1978). 2) 中島武, 食品包装, 54巻, 2号, 38頁 (2010). 3) ASTM E313-1996, 721. Fig. 1 Relations of transparency and Δn2 for sheet samples (thickness; 0.3mm) Fig. 2-a USAXS Pattern, 2-b Ix vs q |