• 利用目的 創薬ターゲット蛋白質の構造は、新薬の探索や最適化に重要な情報であるが、膜蛋白質などの高難易度ターゲットの構造決定は、現時点では非常に難しく時間を要する。本課題では、SACLAにおいて測定装置開発を進めるグループと、主要な創薬ターゲット蛋白質の構造を研究する国内の複数のグループを緊密に連携させることにより、各種の創薬ターゲット蛋白質の迅速構造解析法を目指すものである。具体的には、多数の微小結晶をインジェクターで噴出し、それにXFELパルスを照射し、化学結合の切断より短い時間(<10fs)でデータを測定する装置を技術開発の核とする。数多くの結晶から集めた回折データよりコンプリートしたデータセットを作成し、構造解析を行うことを目指している。 本課題は、X線自由電子レーザー重点戦略研究課題「創薬ターゲット蛋白質の迅速構造解析法の開発」の一環として実施する。初年度の1回目はSPring8と同様なゴニオメーター、2回目は短カメラ長タイプマルチポートCCD検出器(MPCCD)と汎用イメージングチャンバー(MAXIC)を用いて測定実験を行った。今年度は専用イメージングチャンバーをマウントするとともに、初年度の実験で明らかになった装置及びその周辺機器の課題点を改善して測定実験を進める。 今回の実験では、まずは、容易にサイズの揃った結晶を大量に用意できるモデル結晶として、種々のサイズのリゾチーム結晶を用いる。また、リゾチーム結晶との比較のために、容易に大量に用意できるその他のモデル蛋白質の結晶も用いる。モデル結晶を用いて、結晶の大きさ、サンプル溶液の粘性、界面活性剤の有無、脂質の有無等の条件を変えることによって、インジェクターのテストを行う。さらに、サンプルインジェクションの条件を検討し、またサンプルチャンバーのアライメント等を検討した後は、実際の創薬ターゲット蛋白質を用いて測定実験を行い、回折像を記録し、データ処理やデータ解析を行う。 構造解析の一連の流れを各種の結晶で検討することによって、現行の装置システムにおいて最適な実験条件を明らかにするとともに、課題を抽出する。また、現行システムで可能な微結晶の構造決定を行うとともに、現行システムの限界を見極め、次期の装置システムの開発につなげる。チャンバー、インジェクター、検出器、その周辺機器などの技術開発を進め、結晶のタイプによって、最適なマウンティングやインジェクティング方法を確立する。
• 試料名、実験方法、使用装置•実験測定条件 測定は一回で、1μmコヒーレント集光装置、新規に開発した専用チャンバー、リキッドジェットインジェクター、サンプル温度維持ユニット、短カメラ長タイプマルチポートCCD検出器などから構成される装置システムを用いて測定実験を行った。なお、オフライン用のリキッドジェットインジェクターで、本実験の前に確認テストも実施した。 モデル蛋白質を用いて、現行システムでの最適な実験条件の検討、新規に導入した結晶循環装置の検討、データ処理やデータ解析の検討を行った。また、10keVでの測定以外に、測定波長による反射強度の検討、異常分散検出の検討を行った。種々の検討で見いだされた、現行システムでの最適な実験条件で、適応可能な創薬ターゲット蛋白質結晶について測定実験を実施した。モデル蛋白質としては、リゾチーム、グルコースイソメラーゼ、ソーマチン、ミオグロビン等の7種を用いた。創薬ターゲット蛋白質としては、6種について、1〜30μサイズの微結晶の測定を実施した。 • 測定内容、結果の概要 リゾチームの結晶では、1、3、5、10、12.5μmサイズについて測定やデータ処理を行うと、何れも指数付けが可能で、5μm(インジェクター条件:0.15ml/min、ノズル径75μm、結晶濃度5〜20mg/ml)では1.8Å、1μmでは2.8Åと分解能が低下した。波長9.9KeV(1.25Å)と7KeV(1.77Å)では統計値を比較した場合、2つの波長における差はあまりなかった。結晶循環装置(200μmノズル、流速3.6ml/min)で、1、5、10μmサイズを検討すると、リサイクルによるデータの低下はあまり見られず、循環方式はサンプル量の低減に有効と考えられた(図1)。グルコースイソメラーゼやソーマチンなどについて、分子置換法によって構造決定まで解析することが可能であった。ミオグロビンの結晶で、鉄やコバルトの異常分散を確認することができた(図2)。創薬ターゲット蛋白質のうち、水溶性蛋白質については比較的強い反射が得られ、一部については解析を進めている。 |