【緒言】 光通信・表示分野において透明プラスチックの高耐熱化、低線膨張化が求められており、我々はこれらの特性を実現するために、ナノ粒子高充填系コンポジット材料の開発を行っている。我々はこれまでにナノ粒子高充填系における粒子分散状態の観察に、SPring-8における高輝度放射光を利用した小角X線散乱測定が有効であることを見出した[1]。ナノ粒子の干渉効果に起因する構造因子を解析することにより、高充填系ではナノ粒子が擬似的な結晶構造を形成するためにナノ粒子が凝集しないで均一に分散していることを確認した[2]。 これまでに実施した小角X線散乱測定の解析結果から、ナノ粒子間の長距離および短距離秩序性が透明性、構造発色性といった光学特性の発現に寄与していると思われることを確認した[3]。しかしながら粒子の三次元構造はパラクリスタルモデルのみでは説明が困難であったため、三次元構造と光学特性の関係を十分に議論することができていなかった。本実験ではナノ粒子の三次元分散構造の解明を目的に、極小角X線散乱を用いて幅広い波数領域に渡る構造因子を取得し、逆モンテカルロ法[4]を用いた構造推定を検討した。
【実験方法】 二官能アクリレートモノマー、イソプロピルアルコール分散型コロイダルシリカ(平均粒子径約120 nm)および光重合開始剤を配合し、溶媒を減圧下にて除去した。その後、シート成形し積算光量約700 mJ/cm2の紫外光により架橋することにより膜厚約200 μmのフィルムを得た。得られたフィルムの波長依存性の全光線透過率、平行光線透過率および反射率は紫外可視分光光度計にて測定した。極小角X線散乱測定実験はBL24XU Aハッチにおいて、Bonse-Hart光学系を利用して波長1.24 ÅのX線を用いて実施した。
【実験結果】 図1にシリカ粒子を10, 20および33vol%含むサンプルについて取得したUSAXSプロファイル、およびBL08B2にて実施したSAXSにおいて得られた二次元散乱像から求めた一次元SAXSプロファイルを示す。いずれのサンプルについてもUSAXSとSAXSのプロファイルがうまく連結できていることがわかる。また、二次元SAXS像において、およそq=0.02-0.06 [1/nm]の範囲に見られる粒子間干渉を示す散乱ピークはいずれも等方的に現れていたことから、ナノ粒子は構造異方性を有することなく分散していると考えられる。以上より、q=0.003-1 [1/nm]の範囲において散乱プロファイルは等方的であるとみなせるものとして逆モンテカルロシミュレーションに供した。 各プロファイルについて、シリカ粒子を0.1 vol%含むフィルムの散乱プロファイルを粒子間干渉がないものと仮定して形状因子として差し引き、さらにqが十分大きな場合には構造因子は1に収束するとして規格化することによって構造因子を得た。 逆モンテカルロシミュレーションはRMC++ (ver. 1.6.1)[5]を用い、シリカ粒子を擬似原子として扱うことで実施した。含まれる粒子は単一粒子径の粒子とし、粒子径は0.1vol%のフィルムのSAXSプロファイルについて剛体球の散乱関数でフィッティングし得られた値とした。構造因子は上記の方法で得たものを初期値とし、MCGR [6]を用いて補正した。本シミュレーションはFOCUSスパコンを利用した並列計算により実施した。 図2にシミュレーションの結果得られた三次元構造から求められたシリカ粒子の動径分布関数を示す。いずれの結果もr = 120 nm付近に小さなピークが現れているが、これは初期値とした構造因子関数にノイズとして含まれる粒子間干渉以外の情報に由来するものであると考えられる。フィルムの透明性が良好である20, 33vol%の動径分布関数については鋭い第一ピークが見られていることから、粒子配置の秩序性が透明性と強い相関を有していると考えられる。また、第一ピークから求められる平均粒子間距離の値は、FE-SEMで観察したサンプル表面の粒子配置から計算した値とほぼ一致したことから、本シミュレーションは妥当な結果を与えていると言える。 今後は得られた三次元構造についてさらに数値解析を進めていくことで、三次元構造と光学特性の関係を明らかにしていく予定である。
【参考文献】 [1] 妹尾 政宣, 竹内 健, 岡 渉, 下邊 安雄, 桑本 滋生, 漆原 良昌, 松井 純爾, 中前 勝彦; ネットワークポリマー, 30, 16 (2009). [2] 妹尾 政宣, 竹内 健, 岡 渉, 下邊 安雄, 桑本 滋生, 漆原 良昌, 松井 純爾, 中前 勝彦; ネットワークポリマー, 31, 19 (2010). [3] 首藤 靖幸, 三宅 麻代, 佐藤 健太, 妹尾 政宣, 桑本 滋生; SPring-8兵庫県ビームライン年報・成果集 (2011). [4] R. L. McGreevy and L. Pusztai; Mol. Simul., 1, 359 (1988). [5] http://www.szfki.hu/~nphys/rmc++/opening.html [6] L. Pusztai and R. L. McGreevy; Physica B, 234-236, 357 (1997). |