課題情報
課題番号 2012B3330
実験課題名 ナノフィラーコンポジット材における粒子分散構造の変化の観察
実験責任者 0025197 首藤 靖幸 (住友ベークライト(株))
ビームライン BL08B2
タイトル
ナノフィラーコンポジット材における粒子分散構造の変化の観察
著者
 
主著者 0025197 Shudo Yasuyuki 住友ベークライト(株)
共著者 0033230 Komori Takashi 住友ベークライト(株)
共著者 0006158 Senoo Kazunobu 住友ベークライト(株)
共著者 0005718 Kuwamoto Shigeo (財)ひょうご科学技術協会
本文
【緒言】
光通信・表示分野において透明プラスチックの高耐熱化、低線膨張化が求められており、我々はこれらの特性を実現するために、ナノ粒子高充填系コンポジット材料の開発を行っている。我々はこれまでにナノ粒子高充填系における粒子分散状態の観察にSPring-8における高輝度放射光を利用した小角X線散乱測定が有効であることを見出し [1]、ナノ粒子の干渉効果に起因する構造因子を解析することにより粒子の分散状態の評価を実施した[2]。
さらに我々は粒子径、粒子充填量を制御することにより可視光の特定波長のみを反射する透明な構造色フィルムを作成した。得られた発色フィルムについて小角X線散乱測定を行ない構造因子プロファイルを分析した結果、シリカ粒子間の短距離秩序性が構造発色性の発現に寄与していると思われることを確認した[3]。
このようなナノ粒子の配列がもたらす構造発色性は、熱および延伸などの外的要因により粒子配置の秩序を変化させることによって更なる制御ができるものと考えられる。本検討ではマトリクス樹脂架橋前の溶液状態において、熱処理による粒子分散状態の変化を観察した。

【実験方法】
 二官能アクリレートモノマー、メチルエチルケトン分散型コロイダルシリカ(平均粒子径約200 nm)および光重合開始剤を配合し、溶媒を減圧下にて除去した。その後、シート成形し積算光量約700 mJ/cm2の紫外光により架橋することによって膜厚約200 μmのフィルムを得た。得られたフィルムの波長依存性の全光線透過率、平行光線透過率および反射率は紫外可視分光光度計にて測定した。
小角X線散乱測定実験はBL08B2第2ハッチの設備を用い、UV架橋前の溶液および架橋後の複合フィルムについて測定を実施した。UV硬化前の溶液は内径1 mmのガラスキャピラリーに封入し、熱処理検出器には2次元検出器PILATUSを用い、カメラ長6.0 m、X線波長, 1.5 Åの条件で測定を行った。

【実験結果】
図1に粒径200 nmのシリカ粒子を20vol%充填させて作成したフィルムおよびUV架橋前の溶液の一次元小角X線散乱プロファイルを示す。フィルムは、溶液調整後ただちにUV照射し硬化させたもの、およびシート成形後に80℃で10分間熱処理した後に40分間室温で放冷し、UV照射し硬化させたものを用いた。溶液についても同様に、ガラスキャピラリーに封入したもの、および封入後に80℃で10分間熱処理した後に40分間室温で放冷したものを用いた。
フィルムサンプルのSAXSプロファイルを確認したところ、UV硬化前の熱処理の有無によってプロファイルに差異が認められた。熱処理を実施後に架橋させたフィルムでは、q = 0.027 [1/nm]付近に見られる第一ピークが先鋭化し、またq = 0.039 [1/nm]に小さなピーク, q = 0.054 [1/nm]に鋭いピークが認められた。ピークを与えるqの比がおよそ1 : 1.4 : 2であったことから、SCあるいはBCC型の結晶格子が形成されているものと推測される。これはシート化後の熱処理によって粒子の再配列が促された結果、コロイド結晶化が進行したものと考えられる。図2に紫外可視赤外分光光度計で測定したこれらのフィルムの反射スペクトルを示す。このプロファイルにおいて、熱処理を実施したものについては反射ピークが鋭い単峰性に変化していることからもコロイド結晶の形成が示唆される。
一方、UV架橋前の溶液については熱処理の有無によるSAXSプロファイルの変化は見られなかった。いずれのSAXSプロファイルにおいても、熱処理実施後にUV架橋したフィルムのプロファイルと同様にSCあるいはBCC型のコロイド結晶形成を示唆するピークが認められた。溶液サンプルについては熱処理前後でプロファイルがほぼ同一であり、熱処理前においても結晶構造が形成されていることが示唆される。これはキャピラリーへの封入時の溶液流動によって内部壁面に結晶形成が誘起されたためと予想されるが、詳細確認には更なる検討が必要である。
以上より、UV架橋前のシリカ/アクリルモノマー溶液に熱刺激を加えることによって、シリカ粒子配列をコロイド結晶構造へ転移させることが可能であることが示された。転移後の結晶構造がSC型かBCC型かのいずれであるかについてはSAXSプロファイルのみでは判別できず、顕微鏡等による観察を行うことも必要である。
今後は、熱処理過程、UV照射硬化過程の構造観察をin situ測定で行なうことによって、構造形成過程の詳細な追跡を実施する予定である。

【参考文献】
[1] 妹尾 政宣, 竹内 健, 岡 渉, 下邊 安雄, 桑本 滋生, 漆原 良昌, 松井 純爾, 中前 勝彦; ネットワークポリマー, 30, 16 (2009).
[2] 妹尾 政宣, 竹内 健, 岡 渉, 下邊 安雄, 桑本 滋生, 漆原 良昌, 松井 純爾, 中前 勝彦; ネットワークポリマー, 31, 19 (2010).
[3] 首藤 靖幸, 三宅 麻代, 佐藤 健太, 妹尾 政宣, 桑本 滋生; SPring-8兵庫県ビームライン年報・成果集 (2011)
画像ファイル添付
Fig.1 SAXS profiles of composite film and precursor solution containing silica particles of 200 nm diameter. Fig.2 Reflectance spectra of composite film containing silica particle of 200 nm diameter.