要旨 ビーム幅25μm、ビーム間隔200μmのすだれ状白色X線を用いて、正常マウスの脳への照射実験を行い、線量による晩期有害事象をマウスの生存率および組織学的評価から検討した。さらに、ビーム間隔を変更し同種の評価を行った。
研究の背景 微小平板ビーム放射線療法(MRT:microplanar beam radiation therapy)は放射光のような高い指向性を持つX線をビーム幅数十μm、ビーム間隔数百μmのすだれ状の細い平板ビームにして患部に照射する方法であり、ビーム内のピーク線量が1回線量で数百Gyという高い照射線量にもかかわらず正常組織の損傷が回復し、担癌動物の延命効果がみられると報告されている。このようなマイクロビームを多方向から組み合わせて照射することにより、腫瘍組織に高線量を集中させ、今まで根治照射が難しいとされてきた悪性神経膠芽腫等の放射線治療に有用であると考えられる。本研究では、通常X照射(Broad beam irradiation)とすだれ状照射(Slit beam irradiation)の脳正常組織耐容線量を晩期有害事象の観点から検討した。
対象と方法 8週齢オスのC57BL/6JJclマウスを麻酔下で固定し、全脳(縦12mm×横10mm)に、前方からSPring-8共用ビームラインから取り出した放射光X線を照射した。スリット照射では、ビーム幅25μm、ビーム間隔200μm、ピーク線量120Gy/secのマイクロビームを創出し、照射時間を変化させ照射を行った。また、ブロード照射は線量率120Gy/secで照射時間を変化させ照射を行った。照射後は定期的に観察を行い、観察期間は最大3か月間とし、観察終了時に生存していたマウスに関しては4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝溶液で還流固定を行った後、組織切片を作成した。
結果 ビーム幅25μm、ビーム間隔200μmスリット照射群の半致死線量(LD50/90)は約500Gyであり、ビーム間隔100μm群、300μm群ではそれぞれ180Gy、700Gyであった。組織学的評価では照射部位に一致したスリット状の核の脱落がみられたが、異常行動等はみられておらず機能学的な異常はなかったと考えられる。
考察 2010B期に行ったビーム幅25μm、ビーム間隔200μmスリット照射群の23日間の検討ではLD50/23は約650Gyであり、半致死線量は長期間の観察により若干の低下がみられたが、死因の特定により今後その原因を解明する予定である。しかしながら、400Gy程度のスリット照射であれば長期的にも安全に照射可能であり、難治性腫瘍に対する放射線治療への応用の糸口を見いだせたと考える。さらに、ビーム間隔を変更した検討では被照射体積が多くなるほどLD50が低下する傾向にあり、腫瘍制御の観点からも最適なビーム間隔を検討することが必要であると考えられる。 |