1. 目的
放射光から得られる高指向性および高線量率のX線マイクロビームを用いた放射線治療は、新しい放射線治療法として検討されている。その背景として、マイクロビームでは200Gy以上という極めて高線量を照射しても組織壊死は発生せず、従来の放射線治療では達成できない極めて優れた生物学的特性をもつことが報告されていることが挙げられる。しかしながら、そのメカニズムはまだ不明な点が多く、有効性も確立していない。生物実験の結果を評価するために、マイクロビームの物理的な線量測定を行い、その有効性の検討が必要であると考えられる。本研究ではマイクロビームに対して、ガフクロミックフィルムとフラットベッドスキャナーを用いた線量測定法に関して検討を行った。
2. 方法
2.1. 照射装置
BL28B2の第2光学ハッチに配置されているマイクロスリット、および照射位置合わせレーザーポインターを用いた。照射線量の制御はハッチ据え付けのX線シャッターで照射時間を制御することで行った。
2.2. ファントム
媒質中の線量評価のため、15 cm×15 cmのアクリル板を組み合わせたファントムを使用した。
2.3. ビーム条件
ファントムへの照射は、ビーム幅50 μm、ビーム間隔200 μm、照射野1.2 cm×1.2 cmで行った。マイクロビーム1本あたりの照射時間は5秒とした。
2.4. 線量測定
ガフクロミックフィルム(ISP Technologies社製)により行った。HD810(Rot# R2507H810)およびEBT2(Rot# A08151102B)を用いた。フィルムのスキャンには放射線治療の線量検証において広く使用されているフラットベッドスキャナーES-10000G(EPSON社製)を使用した。マイクロビームのサイズやフィルムのノイズを考慮し、解像度800 dpi、48 bit color出力でスキャンした。スキャンした画像はImageJ(National Institutes of Health)により解析した。
3. 結果および考察
HD810およびEBT2においてフィルム濃度と線量の関係を測定した結果、HD810では線量に応じた濃度曲線が得られ、大線量に対する測定が可能であることが確認された。一方、EBT2では約200Gy以上の線量でフィルム濃度が飽和し、大線量域での測定は困難であった(Figure 1)。
次にHD810を用いてコリメータ・フィルム間距離を一定にし、均質ファントム中での深部線量を測定した結果、ファントム厚0 ~ 60 mmでピーク・谷線量比(peak-to-valley dose ratio, PVDR)はおよそ8 ~ 10であり、深さによるPVDRの変化量は小さいことがわかった(Figure 2)。一方、成山らの報告では、ファントムの深さ10 mmでのPVDRは67であり、我々の結果は大きな差を認めた。この原因として、フラットベッドスキャナーの解像度やフィルムのモアレ等による特に谷線量での精度低下が考えられる。また、本実験で使用したHD810は低エネルギー光子に対して感度が約25%低下すると報告されており、これも精度低下の原因の1つではないかと考えられる。今後、光学顕微鏡を用いたスキャン画像による解析やモンテカルロシミュレーション計算との比較により、結果の検討を行う。
4. 参考文献
[1] Dilmanian FA, et al., Interlaced x-ray microplanar beams: a radiosurgery approach with clinical potential, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 103(25), 9709-14, 2006
[2] Slatkin DN, et al., Subacute neuropathological effects of microplanar beams of x-rays from a synchrotron wiggler, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92(19) 8783-7, 1995
[3] Crosbie JC, et al., Tumor cell response to synchrotron microbeam radiation therapy differs markedly from cells in normal tissues, Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 77(3), 886–94, 2010
[4] N Nariyama, et al., Micro-Scale Dose Distribution of Microplanar X Rays from Synchrotron Radiation: Measurement and Monte Carlo Calculation, Prog. Nucl. Sci . Tech., 2, 312-317, 2011
[5] N Nariyama, et al., Spectromicroscopic film dosimetry for high-energy microbeam from synchrotron radiation, Appl. Radiat. Isot., 67, 155-159, 2009 |