1.利用目的
我々は、ポリプロピレン等の高分子をある”臨界ひずみ速度”以上で伸長結晶化すると形態が良く知られた球晶から”ナノ配向結晶体(nano-oriented crystals, NOC)”と名付けた新形態に変化し、高性能化することを見出した[1]。NOC生成が高分子に普遍的であることも示してきた。本研究の目的は、NOC生成メカニズム解明のために「NOC生成の結晶化温度依存性」を明らかにすることである。NOC結晶化メカニズム解明は超高性能・超高機能高分子創製の基礎となるので産業的にも重要である。
我々は「1)伸長により配向融液が局所的に発生するために核生成が誘発される、2)生成した核と核の間の融液は伸長されて配向が誘発されるために核生成が一層加速される、その後も1)と2)の過程が”連鎖反応”的に繰り返されるためにNOCが瞬時に生成する」という「NOC生成の連鎖反応モデル」を提唱した(Fig.1)。核生成は過冷却度ΔT(=平衡融点と結晶化温度Tcの差)により決定的に支配される。よって、NOC生成の結晶化温度依存性を明らかにすることは、NOC生成メカニズム解明上基本的な課題である。
本利用課題の目的は臨界ひずみ速度の結晶化温度依存性を明らかにし、NOC生成が核生成により律速されていることを検証することである。
2.試料名、実験方法、使用装置・実験測定条件
試料には典型的な結晶性高分子であるisotactic polypropylene (iPP) (Mw=27x104, Mw/Mn=8, mmmm=0.98)を用いた。我々が開発したロール型伸長結晶化装置を用いて試料を融液伸長結晶化した。iPPを平衡融点以上で融解した後に、結晶化温度は145~170℃、伸長ひずみ速度は1~103s-1の範囲のある値に設定した。結晶化物の形態がNOCであるか球晶であるかは、超小角X線散乱(USAXS)、あるいは小角X線散乱(SAXS)パターンにより判定した[1]。X線波長とカメラ距離はUSAXSでは0.2nmと7.7m、SAXSでは0.1nmと3mとし、検出器にはイメージングプレートを用いた。
3.測定内容、結果の概要
”臨界ひずみ速度”は結晶化温度の減少(即ちΔT の増大(注))とともに著しく減少することがわかった(Fig.2)。臨界ひずみ速度は170℃近傍では約5x102s-1と大きかったが150℃では約102s-1まで減少した。また、170℃以上と145℃以下ではNOC生成が困難であった。
これらの事実はNOC核生成速度IがΔTの増大とともに著しく増大することを意味している。よって核生成理論で良く知られた式I=I0exp(-const/ΔT3) (1)によって説明出来る。ここでI0はprefactorである。よってNOC生成が核生成により律速されていることが検証できた。
結論: NOC生成に必要な臨界ひずみ速度の結晶化温度依存性からNOC生成が核生成により律速されていることが検証できた。
(注)高分子結晶の配向融液中における平衡融点は分かっていないのでΔTは決定できていない。この点は流動場結晶化分野における重要な未解決問題である。
参考文献
1)Okada, K., Hikosaka, M. et.al, Polymer Journal、2010, 42, 464 |